Vol.71
07.10.25 更新
10月25日発売のサウンドノベル最新作にして15周年記念タイトル、PS3『忌火起草』。サウンドノベルがPS3という新たなハードで強烈な進化を遂げ、「ゲーム史上最恐」と謳われるこのタイトルについて、ゼネラルプロデューサーである株式会社チュンソフト 中村光一社長にお話を伺いました。

『忌火起草』ゼネラルプロデューサー
中村 光一(なかむら こういち)
株式会社チュンソフト代表取締役社長。1983年に株式会社チュンソフトを設立後、多数のヒットタイトルを手がける。『弟切草』で「サウンドノベル」という新しいジャンルを切り開き、その後も『トルネコの大冒険』シリーズ、『かまいたちの夜』シリーズ、『風来のシレン』シリーズ、『街 〜運命の交差点〜』などの名作を世に送り出す。近年のプロデュース作品は『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』『ホームランド』など。
『忌火起草』について教えてください。
[中村]
本作は、「ゲーム史上最恐」のサウンドノベル完全最新作です。
「ボイス演出システム」を採り入れ、臨場感溢れるボイスと心理描写や情景描写のテキストをシンクロさせることで、目と耳の両方から新しい恐怖を味わうことができます。
映像に関しては、PS3のパワーを生かし、「ハイビジョン映像」と「リアルタイムエフェクト」で、臨場感を最大限に表現しています。
音声面では、ドルビーデジタル5.1chに対応し、リアルな環境用効果音、突然背後から聞こえるボイスなどの圧倒的なサウンドで恐怖を演出します。
シナリオはもちろんマルチシナリオ・マルチエンディングです。また、本編では直接語られない登場人物のプロフィールが読める"TIP"や、本編中のある言葉をキーワードにした怪談集「百八怪談」がゲーム中に隠されています。

▲本作の主人公「牧村弘樹」。20歳の大学生で、ヒロイン「早瀬愛美」に淡い恋心を抱いているが、それを伝える勇気がない。本作は弘樹の一人称で物語が進んでゆく。

▲テキスト上に青字で表示される登場人物名があったら、それは「TIP」。その時点でのプロフィールを読むことができる。同じ人物でも、進行に応じて内容が変化していく。
本作品を開発するにあたって、特にこだわった点などを教えてください。
[中村]
今までもボイスの出るゲームはありましたが、声に合わせて出てくるテロップは、同じ内容のことが多いですよね。今作のように、ボイスを聞きながら思いや考えなどの、内容が違うテキストを同時に読んで進めていく、というスタイルは今までほとんどなかったかと思います。今回それに挑戦して、いい形で仕上げることができたなと思っています。
特に今回は、人物の特定をしない表現で役者の皆さんには演じていただいて、ある程度プレイヤーのイマジネーションにゆだねる形になっていますので、実際に映像とテキストで構成し、それにボイスを乗せてもなんら違和感がなかったですね。
「ボイスシステム」は今回のようなホラーもののタイトルにはピッタリだったなあと感じています。
しゃべっているボイスとテキストが出てくるタイミングも非常に重要です。
テキストを読み終わって、入力を待ってもらっていいところと、待っていたら成立しないところとがそれぞれ存在するんです。これは一シーンずつ、丁寧に見ながら現場で判断しています。
その場に合ったあるテンポで話をしていないために、場面として成立していないところが当初はあったりもしました。最終的にはそうならないように、一つ一つのシーンを見ながら、自然に送られるように手を入れているので、このあたりはかなり手間がかかっていますね。
また、基本的に「読み飛ばしてしまって読めなかった」ということがないように、重要な場面では必ず入力待ちになるように作っているのですが、意外に皆さん読むのが早いんです。人間は耳や目から入ってくるいろいろな情報を一度に理解する能力があることがわかりました。現代人は特にそうかも知れないです。
むしろ、頭で考えたり読んだりしているときに、余裕があって頭に間を空けてしまうと、意識が別の方に行ってしまって、ゲームに集中できなくなるということもわかりました。
また、ボイスを入れてみてわかったのが、しゃべり方とか声の感じで、流れや場面をかなり表現してしまうので、意外とテキストをきちんと読まなくても、その場の雰囲気は良く伝わるということですね。
例えば、一人の声優さんが出演するシーンをまとめてバーっとしゃべるという形だと、後で編集したときにすごく違和感のある形になってしまうんです。だから雰囲気がおかしくならないように、その場面に登場する声優さん全員に集まってもらって、「かけあい」をしてもらったりしました。そうしないと声のトーンとか、テンションの違いなどで違和感が出てきてしまうんです。
しかしながら監督さんには、ゲームのことや重要なポイントを非常に理解していただいていたので、とてもやりやすかったです。
▲「ボイスシステム」では目でテキストを追い、耳でボイスをとらえる。左の場面では、「おはよう」という声が間近から聞こえ、右の場面では謎の息遣いが耳元で聞こえてくる・・・
今回はドルビーサラウンド5.1chにも対応しています。
ボイスシステムにしたことで、音声も普通にスタジオでただ撮っているだけでは同じ音になってしまうんです。場所や場面に応じて、広い空間の声や狭い空間の声などに聞こえるものは、実はすべて取った後に加工しているんですね。そこはすごい手間がかかっていると思います。
5.1chといっても、単純に「後ろ」とか「前」とかだけでは全然臨場感が出ないので、きちんと距離感や、空間の広さを出すことにこだわりました。
映像に関しては、基本は静止画なんですが、微妙にスクロールしたり、微妙に揺れていたりしています。これが飽きさせないための重要なポイントになっていると思います。
そういう細かい動きも、やはりハイビジョンだと「いかにもスクロールしてます」という不自然な感じでなくできますので、作りやすいですね。
最終的に、CGと生々しい実写だと絵的に融合しないので、融合できるポイントをせめぎあったという感じがありますね。今回使っている写真からの取り込みの画像は非常にリアルに感じるかと思うんですが、CGと融合させるために元の素材からは相当加工しています。多分、元の画像を見ていただくと、ええーーっと驚くくらい変えています。
▲「リアルタイムエフェクト」や映画的な数々の演出を施したグラフィック。CGと実写が完全に融合することによって、まったく新しい恐怖の演出が可能になった。
また最近、デュアルショック3への対応を発表しましたが、これは最後の1週間くらいで決めたことでしたので、現場は大変だったと思います。
サウンドノベル、特に今回の「ボイスシステム」は、作りこめば作りこむほど気になる部分が出てきてしまいますので、大変ではありますが、絵も音も一つ一つやっていかないと、逆に不自然になってしまうので、とことんこだわりました。
とはいえ、実際やってみて、いろいろなところが意外にうまく成り立つという経験もありましたね。作っていて非常に面白かったです。
このタイトルを制作するに至った経緯などを教えてください。
[中村]
2005年の春くらいに立ち上げましたので、制作期間は2年半くらいかかっています。やはりシナリオを作るのに一番時間がかかっていますね。
今回ハイビジョンで、実際のリアルな映像とCGを合わせるというコンセプトなので、映画のスタッフの方に撮影をお願いしているのですが、そちらの皆さんからもたくさんアイディアを頂いています。なかなか我々だけでは「映画っぽい怖さ」は出せなかったんじゃないかと思いますね。
今回のテーマとなっている「ビジョン/合法ドラッグ」といったキーワードは、現場のプロデューサーのイシイ(※1)が元々持っていたアイディアだったんです。ドラッグをやっておかしなものが見えるのが、もしドラッグのせいではなくて本当に存在したら・・・という設定は怖いだろう、というアイディアで、それは面白いということでスタートしました。
ところが、当然ですが、合法かどうかも含めて「ドラッグ」というものは一般の皆さんには馴染みがないものですよね。悪いものを飲んで変なものが見えるのは当然では?、という意見も当初ありましたが、書き上げていく中で、どんどん迫力のあるストーリーになっていったので、これで行こう、と最終的に決定しました。
▲本作の重要モチーフである、合法ドラッグ「ビジョン」。飲むと盛り上がれると話題になっているが、遊び感覚でそれを手に入れた若者達が次々に謎の焼死を遂げる。
本作品を開発するにあたって、特に苦労した点などを教えてください。
[中村]
現場は本当に、ボイスをやろうと僕が中盤で言い出してからは大変だったと思いますよ(笑)。
まあ、先ほどお話したビジュアルや音声作りの苦労というのはテクニカルな面であって、サウンドノベルを作る本当の苦労とはやはりシナリオだと思います。
普通の映画や小説とは違って、一本縦にお話があるだけでは当然ダメで、横に何重にもお話がなければなりませんし、またそうなる「意味」が必要ですので。もちろん分岐についても、どういう選択がどういう結果になる、というシナリオとゲームシステム部分の組み立てが毎回一番大変ですね。
今回の分岐のシステムは、『かまいたちの夜』のようにツリー型になっている訳ではなく、過去に選んだ選択肢の中で、どういう傾向の行動を採ってきたかというのを集計しながら話が変わっていく形になっています。
今回もまた、いろいろな他業種の方々と組んでお仕事をさせていただきましたが、もちろん皆さん一流の方なので、逆にそういう面での苦労はあまりなかったです。
先方の皆さんも色々アイディアを持っていらっしゃいますので、アイディアのキャッチボールをしながら、作ることに専念できました。
チュンソフトの内部でも、ゲームの作り方として、細かいコンテを切って指示するというよりは、「こんな感じ」とざっくりとした形で担当者に投げることが多いんです。そのときに、自分のイメージしていたものよりも、担当者がいいものをあげてきたりしますので、想定外の面白さが生まれてきたりするんです。
想定外といえば、プログラムでもバグで想定外の面白さが生まれたりすることもありますね。
最初のSFC『弟切草』のときに、音の位相をいじって後ろから聞こえてくる場面があるんですが、これは最初から意図したものではなかったんです。足音が近づいてくるというデータのはずが、バグで最後の一歩がダッと後ろに飛ぶんですね。なんでこうなるんだろう?とバグの原因を調べたら、位相をずらすとそう聞こえる、ということがわかって、その後は演出としてわざと使うようになったんです。
苦労もありますが、想定外の面白いことがいろいろ起きるのも開発の現場ならではですね。
オススメプレイ方法などを教えてください。
[中村]
せっかくなので、ハイビジョンのテレビで、5.1chの環境でプレイしていただきたいですね。ヘッドフォンよりも、やはりスピーカーがオススメです。
PS3をお持ちの方でしたら、ハイビジョンの環境はお持ちの方が多いかと思いますし、最近は5.1chもお手ごろになってきているので、ぜひ環境を揃えていただきたいです。
自分でも環境をそろえて、一番最初にひとりでやったときは、ちょっと寝られなかったです。真剣にトイレに行きたくなかったですね(笑)。
東京ジョイポリスで稼働中の『忌火起草 胎動編』を体験されたご感想、東京ゲームショウのご感想をお聞かせください。
[中村]
『胎動編』は本当に怖すぎます。あのヘッドフォンはすごいですね。音がそれぞれのシーンとシンクロするので非常に感心しました。もう一回「一人で行って来い」って言われたら本当にイヤです(笑)。
東京ゲームショウでは、『忌火起草』を大勢の方に体験していただき嬉しく思います。長時間お待ちいただいた方や、プレイできなかった方には申し訳なく思っています。
『忌火起草』コーナーは、最初に大勢で見る映像も、個室の環境も、サラウンドがきっちりセッティングされていて本当に良かったですね。「プレイ時間、終わりですよ」と、スタッフにガラッと空けられて驚くのも演出か?と思ってしまいました(笑)。
▲左が中村社長もオープニング時に体験した、東京ジョイポリス『忌火起草 胎動編』。 右の東京ゲームショウ2007・セガブース『忌火起草』コーナーでは最大2時間待ちの列が。
今後の展開、ご予定などを教えてください。
[中村]
今までのサウンドノベルは、多岐に渡るプラットフォームやメディアに展開していました。
『忌火起草』においても、今現在、具体的に進んでいる予定がたくさんあります。まだ発表はできないのですが、ぜひ楽しみに待っていてください。
また、今回採用した「ボイスシステム」は、非常に応用性のあるゲームの表現方法だと思っています。今後はホラーではない、他ジャンルのものなどもやってみたいですね。
ボイス前提のシナリオで、もっともっと面白いものが作れるんじゃないかと、今回やってみて非常に手ごたえを感じました。
直近では、Wii『風来のシレン3 〜からくり屋敷の眠り姫〜』の開発が佳境に入っています。
読者の皆さんへメッセージをお願いします。
[中村]
『忌火起草』、ぜひプレイしてみて下さい。
「怖い」という部分ばかり強調していますが、ただ単に怖いだけではなくてちゃんとテーマがありますんで、読み物としての面白さも楽しんでいただきたいですね。
読者の皆さんが気になっているのは、「ピンク編」かと思いますが・・・。
[中村]
今回、「ピンク編」は相当力が入っていますよ。非常に笑えます。
使っている画面は本編と同じだったりするんですが、それがまた、「こう来るか〜」という感じで、とてもおかしいんです。
ひょっとしてこれを見せたいからここまでやったのか?というくらい非常に良くできていますね(笑)。
今度のピンク編は、いや今度のピンク編「も」、絶対に裏切りません!
どんなに怖くても途中でやめないでください。その価値はあります!
※1 本作のプロデューサー:株式会社チュンソフト・イシイジロウ氏。